開け!「バゲット」のクープ

未経験パン列伝
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最初に褒められた仕事を覚えておきなさい。それはあなたの大切な勇気と戒めになります。by祖母

⭐「バゲット」⭐

🥖東京。馬場FLATのバゲットです

いわゆるフランスパンです。

わざわざ私の拙い説明なんて必要ないであろう、恐らくバゲットを置いてないパン屋さんを探す方が難しいくらい、そのパン屋の顔として君臨するパン界の切込み隊長。1番ショート、あるいはセンターが似合うパンです。言ってて意味わからないです。

これまでたくさんの職人さんとお会いしましたが、やはりバゲットに特別こだわりをお持ちの方が多いです。焼き立てのパチパチとした音が嫌いな職人さんはいないのではないでしょうか(^^)

そのバゲットを釜入れする際に、「クープ」という工程があります。

これはパンの表面にナイフで切り込みを入れる作業なのですが、油脂や卵を入れないシンプルなパンは釜の中で膨らむ力が弱い為、膨らむ前に周りが固まってしまいます。その為にも切り込みを入れて中の生地を水分の蒸発と共に伸ばしてあげる。そんな役割があります。

最高に分かりづらい説明ですが、見た目や食感にも影響するのでとにかく必須の工程なのです。

私のパン屋での最初の仕事は研修先でのオーブン担当でした。

研修初日、チーズをトッピングしたり卵を塗ったりしてる間にピーピー鳴りひびくオーブンに悪戦苦闘している時、責任者のOさんが言います。

「じゃあバゲット釜入れしようか」

そう言われた時の何とも言えない緊張感。

本来その緊張はどのパンに対しても持たなければならないのですが、ど素人の私は、

「フランスパンって何か多分特別なやつじゃん」

という先入観を持ちまくっていたのです。

実際そのお店でもバゲットとバタール(バケットより少し短いパン)は20本を3回転の計60本と店の商品の中では1番量を作っていました。

Oさんが言います。

「今日は5本くらいやってみようか。」

「とりあえず何本か先にやるから見ててね」

Oさんはスリップピールという道具にテキパキとバゲットを並べていきます。

これがスリップピールです

「ナイフの歯を寝かせる事と、表面の薄皮を削ぐつもりで切ってごらん」

と言いながらスッスとクープを入れていきました。

野球部時代に先輩の打撃練習を観察していた時を思い出します。

私にはその人の身振りを真似する時に全体をぼんやりと見る癖があります。

さすがに野球とは違うだろうと足元は見ませんでしたが、ナイフを持つ手元だけでなく腕全体をよく観察させてもらいました。

素人の私でもわかる程の一定のリズムでクープを入れ、そして手ではなく肘をスライドさせて切っているという事に気づきました。

職人さんからすれば体に染み付いて何気なくやっている事なのかもしれませんが、自分なりにコツを見つける為に先輩を観察する事は大切だとこの時に痛感したのです。 

「じゃあちょっとやってみよう」

と言われてやってみる。

結果的に凄く褒められました。もしかしたらおだててくれたのかもしれませんが、私は見事にテンションがあがり豚もおだてりゃ木に登るを体現したのです。

結局残りのクープを全て入れさせてくれました。

30歳での未経験業界への転職は不安ばかりでしたが、何気ない一言が本当にヤル気をみなぎらせてくれます。💪

怒られたり注意されたりの連続でしたが、バゲットを釜入れする時は、

「よし、自信を持ってやろう!」

と勇気りんりんになれるセーブポイントの様な時間を手に入れたのは大きかったです。

また、だからこそ調子に乗ってセーブポイントを失わないようにと戒めにもなりました。

まだまだ若輩者ですが今はもう数えきれない程のバゲットを釜入れしてきました。

それでも最初に教わった事と自分で見つけたコツ。

①刃を寝かせる

②表面の薄皮を剥ぐ意識

③一定のリズム

④肘を横にスライドする

この4つは自分の中の原点にしていつも臨んでいます。

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